
空間の高級感は、壁材や家具を高価なものにすれば出るわけではありません。大切なのは、「何を置くか」ではなく「何を置かないか」です。
分かりやすいのがハイブランドの店舗です。広い店内に、商品はごくわずかしか置かれていません。それでも高級に見えるのは、商品そのものではなく、その周りにある「余白」が価値をつくっているからです。
余白には、高級感を出すだけでなく、人の行動を変える力があります。クリニックの待合室と受付カウンターを例に、その仕組みを解説します。
高級感をつくっているのは、物ではなく「余白」
空間の価値をつくっているのは、置いてある物そのものではありません。その周りにある「何もない空間」です。
三つ星レストランの盛り付けも同じです。大きな皿の中心に、少量の料理だけをのせる。目立たせたいものの周りに意図的な「余白」をつくることで、スポットライトを当てているかのように対象物を際立たせています。
この余白があると、視線は他へ散らずに一点へ集中します。ひとつの対象が作品のように見え、実際よりも価値のあるものに感じられる。ここから「高級感」が生まれるのです。
反対に、床から天井まで商品を積み上げ、「探す楽しさ」を演出する量販店では、この効果は生まれません。親近感は生まれますが、情報量が多すぎるため高級感は失われます。
待合室も同じです。高級感が出ない原因は、素材の質でも家具の値段でもありません。物を置きすぎていることです。

余白は、センスではなく技術
余白がデザインの対象になったのは、100年近く前のことです。
1928年、タイポグラファーのヤン・チヒョルトは、文字と余白のバランスを研究していました。文字を詰めれば読みにくくなり、空けすぎれば締まりがない。適切な配置を探る中で、彼は一つの結論に至ります。
余白は、単なる「何もない空間」ではない。余白それ自体がデザインである。
つまり、余白は偶然できるものではなく、最初から意図して置くものだということです。
ハイブランドの店舗では、商品と商品の間隔、天井からの距離、照明の角度までが、この考え方のもとで決められています。
シャネルから学んだ、店内ディスプレイのルール
ドムスデザイン代表の戸倉は、デザインを学ぶためにシャネルで働いていた時期があります。
当時のシャネルでは、幅90cmのディスプレイ棚に置くことが許された商品は、わずか1〜2点だけでした。配置の高さも決まっており、数百万円の高額商品は、アイキャッチとなる上段へ。売れ筋のバッグは、手に取りやすい下段へ。
徹底されていたのは、補充のルールです。商品が飛ぶように売れても、陳列数を増やすことは固く禁じられていました。1つ売れたら、バックヤードから1つ補充する。
減らし続けるという話ではありません。商品どうしの間隔を一定に保ち、さっぱりとした状態を維持する。売れているからと陳列を厚くしたくなる誘惑を、ルールで封じているのです。
そして、この考え方が使えるのは店舗だけではありません。棚の幅を決め、置く数を決め、間隔を保つ。同じ手順は、クリニックの待合室にもそのまま応用できます。
待合室の余白は、患者の動きをつくる

受付カウンターの上に、アルコール消毒液、受付票、筆記用具。これらが並んでいると、患者は最初に何をすべきか判断できません。情報が多いほど、人の行動は止まります。
「まず消毒をしてほしい」。そう考えているなら、案内文を貼るより効果的な方法があります。
それは、整理されたカウンターに、消毒液だけを置くこと。
視界に入るものが一つなら、迷いようがありません。指示を増やすのではなく、選ぶものを減らす。それだけで患者は動きます。
それでも私たちは、つい足してしまいます。消毒液の隣に受付票を置き、その横に筆記用具を並べ、壁には案内文を貼る。どれも必要だと思うから、親切のつもりで。
しかし洗練も、高級感も、機能性も、削ぎ落とすことからしか生まれません。待合室を良くしたいと思ったとき、最初にすべきことは、何かを買い足すことではありません。患者さんにどう動いてほしいのか、その情報を整理することです。
私たちが医療・福祉の現場で、どんなコンセプトを立て、何を引き算してきたか。詳しくは施工例をご確認ください。
この記事は、ドムスデザインYoutubeチャンネル「CHANELの凄さ「余白の魔法」」の内容をもとに作成しています。






